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コリーニ事件 Comments (20)
この事件の国選弁護士は殺された資産家の孫娘と付き合っている設定。
動機を調べていくうちに第二次世界大戦のナチスにまでたどり着く。
深い話となっている。
世紀が改まった頃のドイツ。
ホテル最上階の一室で経済界の大物ハンス・マイヤーが銃で殺害される。
犯人(フランコ・ネロ)は直ちに捕らえられ黙秘を続けている。
トルコ人で新米弁護士のカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク)は予審に立ち会い、犯人の弁護を引き受ける。
資料には本名で記載されていたので気づかなかったが、殺害されたハンスはカスパーの大恩人。
さらに、ハンスの唯一残された遺族の孫娘ヨハナ(アレクサンドラ・マリア・ララ)とは恋仲だったことがあった・・・
といったところからはじまる映画で、主要人物の関係だけを取り出すと、やや興ざめな人物配置の感がありますが、黙秘を続ける犯人の動機を調べると・・・と、俄然、面白くなってきます。
犯人ファブリツィオ・コリーニはイタリア出身。
殺害されたハンスも高齢で、年齢から逆算すると、第二次世界大戦が絡んでいることは、映画中盤で察しがつく。
とすると、サスペンスを盛り上げ、引っ張る要素は、コリーニがハンスを殺害した動機が「下劣な動機」かどうか(これにより罪の重い謀殺となるか、軽い故殺となるかに分かれる)となるのだけれども、映画の決着はそこのところにない。
ナチスドイツが第二次大戦中行った非道行為を糾弾するのではなく、戦後、復興中のさ中の60年代に、旧ナチスの戦争犯罪人たちにお目こぼしをするような悪法をつくっていた、いわゆる「臭い物に蓋をする」以上のことをしていたことを白日に晒すところにあった。
この大戦中のみならず、戦後の歴史上の誤りを正そうとする主題には共感できるのだけれど、サスペンス描写や法廷シーンなどは、やはりぬるく感じてしまいました。
やはり、主要人物の相関が、興ざめなのかもしれません。
カスパーとヨハナの関係がサスペンス醸成に寄与していないような・・・・
ドイツではナチスを生んでしまったことに対する賛否両論がいまでも続いている。未鑑賞だが最近公開された映画「お名前はアドルフ?」は、生れてくる赤ん坊の名前のことで家族や友人が大論争を始める内容らしい。実際のドイツでも、他のどんな名前でもいいから赤ん坊にアドルフと名付けるのだけはよせと言う人は多いと思う。つまりそれだけナチスに対する反省が続いているということだ。対して日本では、松岡洋右や東条英機の名前さえ知らない人が当方の周囲でも結構いる。主に若者だが、本人の問題というよりも教育の問題だろう。
日本の高等学校までの歴史教育では近代史をほとんど教えない。だから戦争時の大本営発表に国民が沸き立ったことも、マスコミが軍と一緒になって嘘の勝利を報道し続けたことも知らない人が多い。南京大虐殺や従軍慰安婦問題などはまったく教えない。関東軍が中国で何をしたのか、大人になって映画を観るまで知らなかった。
文科省は日本の近代の戦争を教えることに消極的だが、日本の映画界の人々は積極的に戦争の本質を追求する。当方が観ただけでも、鑑賞が新しい順で紹介すると「この世界のさらにいくつもの片隅に」「日本鬼子(リーベンクイズ)」「アルキメデスの大戦」「東京裁判」「沖縄スパイ戦史」などがある。少し前だが「日本のいちばん長い日」「小さいおうち」「少年H」「一枚のハガキ」なども観た。
それぞれに視点も見方も異なるが、戦争を美化することなく正面から受け止める姿勢は共通している。映画人の戦争にかかわる世界観は、文科省のそれとは一線を画しているのだ。邦画の戦争映画の多くは戦争がどのようにして起き、人々がどのように苦しんだのかを目の当たりにさせてくれる。歴史の教科書を開く前に、中学生、高校生には戦争映画を観てもらいたい。
本作品の主人公カスパー・ライネン弁護士を取り巻く人間関係は、ストーリーの展開とともに少しずつ明らかになる。小声の台詞で明らかにされる過去もあり、注意深く鑑賞しなければならない。
物語の主眼はライネン弁護士が被告の過去を探り、その人生の真実に迫るところにある。被告が殺したことは明らかだが、動機がわからない。真相に迫るにつれて、もはや罪の軽重を争うことよりも、過去の真実を追及することがライネン弁護士の仕事となる。罪の軽重ではなく被告の人間としての尊厳を守るためだ。
ドイツに限らず、法定では当事者の素行が容赦なく暴露され、人格が攻撃される。それは被告や原告の利益のためである。しかし本当に大事なのは、当事者の尊厳が守られることである。名誉や虚栄ではなく人間としての尊厳。そこがこれまでの法廷映画とはまったく異なる、本作品独自の世界観である。
三つ子の魂百までというが、人は幼い頃の心の傷を一生背負って生きていく。その忍耐と意志には敬意を表したい。そして誰もが心の傷を負っているのだとしたら、人は他人の人生に敬意を持たねばならない。金持ちでもホームレスでも、その人生に貴賤はない。等しく他人の人生を敬すること、そこに人間の尊厳がある。
法定を通じて無名の人間のささやかな人生にも敬意を表し、人間としての尊厳を重んじる本作品の世界観に、なにかしら救われたような気がした。
日本は?
過去と真正面から向き合わない国に未来はないと感じる。
涙がでてくる。
犯人の弁護を託された弁護士が、様々な葛藤を
抱きながら、職務を遂行し、
真実を追求するストーリー。
こういった表現は妥当でないと
思いますが、今まで見てきた戦争の
報道写真や記録や映画より、
戦争の惨さを痛烈に感じました。
元は小説でフィクションかもしれないけれど、
惨さだけではなく、戦後の誤ちにまで踏み込んだ、
この作品に、そして映画化すれば全世界の
人の目に触れる事になり、本来なら隠して
おきたい負をきちんと表現できるドイツという
お国柄に感服しました。
戦争ならばどこにでも起こり得る事で、
単なる個人の一件ではなく、
そこからきちんと向き合い、国家の
誤ちを認め、前進する姿は、
見習うべきとも感じさせられました。
悲し過ぎるストーリーの
悲しい結末でしたが、
不思議と救われた思いを感じました。
戦争だけではなく、生き方さえも
考えさせてくれる秀作だと思います。
鑑賞しようかどうしようか
迷われている方がみえたら、
ぜひ映画館に足を運んでいただきたいと思います。